テスラ・ロードスター1日試乗記

城から走り出す電気自動車

午前9時、待ち合わせ場所の福山駅の北口。駅を出てすぐ前には福山城の城壁が見え、それとなく歴史を感じさせる街並みだ。
そんな歴史の趣を感じさせる街に、否が応でも目立つクルマが一台、スーッと音もなくやってきて、我々の前に止まった。そう、これが今回自分達が試乗するテスラ・ロードスターだ。
低く、かつ少々派手なオレンジの車体も相まって、街なかで走るとやたらと目立つ。しかもほとんど音がしないものだから、街行く人たちからはかなり奇異に見えたことだろう。実際、試乗中でも視線を感じることは度々だった。
ちょっとした休憩のために寄ったコンビニでも、主におじさん達ががもの珍しそうに寄ってきて、興味深そうにクルマを眺めていた。
でも共通して言えるのは、ほとんど(というか全く?)の人がテスラを知らないということだった。まぁ、アメリカで生まれたばかりのベンチャー企業で、なおかつまだこのロードスターしか生産していないのだから、それを知らないおじさん達を責めるのは酷というものだ。

今回はそのテスラ・ロードスターを1日試乗することができたので、その模様をレポートしたい。

概 要


見る人が見ればわかるかもしれないが、テスラ・ロードスターの車体の基本的な部分は、イギリスにあるロータス社のエリーゼがベースになっている。といってもエリーゼの流用ではなく、ほとんどの部分を新たに設計し直しているらしい。シャーシの基本的な素材には軽いアルミ材を使用している。
更にボディは軽量化のために炭素繊維強化プラスチックを使用している。このボディはフランス製。またバッテリーはLGやパナソニックのものが使われているらしく、まさに世界中の様々なメーカーのパーツを結集して作り上げた1台といってもいい。
トランスミッションは1AT。完全にモーターのみで動くテスラにとっては変速機は不要で、ATと書くよりは、変速装置がないといったほうがいいかもしれない。当然、変速機がないことで速度が乗らないことはないし、むしろモーターの出力をダイレクトにタイヤに伝えることができ、かつ軽量化の観点からも、変速機がないということはメリットだ。


また、ここまでの徹底した軽量化をおこなうには訳がある。それはバッテリーの重量だ。
テスラ・ロードスターのバッテリーは一般的なノートPCなどに利用されているリチウムバッテリーを使用し、これを約6000個搭載している。総容量は53kwで、これは三菱i-MiEVの3倍以上の容量。これによって、一回のフル充電で350kmの航続距離を実現している。しかしこのバッテリー、重量は実に450kgもある。
テスラ・ロードスターの全重量が約1,200kgなので、実にその3分の1をバッテリーが占めている計算になる。乱暴な言い方をすれば「電気自動車はバッテリーに車輪を付けた」と言っても過言ではないぐらい、電気自動車にとってバッテリーは重量物なのだ。
しかしテスラ・ロードスターではこの重いバッテリーを車体の中央部に寄せ、可能な限り低くマウントすることで、理想的な重量バランスと、独特のハンドリングを実現している。

ドライブフィール


コクピットの正面には、これが1000万オーバーのクルマとは思えないほど、質素なメータが並ぶ。向かって左が速度計&回転計。先ほど書いたように、テスラ・ロードスターには変速機がないので、回転計と速度が正比例するのだ。よって速度計と回転計を1つにまとめてしまえるのだ。右側にはバッテリーの出力計。真上は0を指し、ここからアクセルを開けると右に傾き、バッテリーからモーターへ電気を送っていることを示す。逆にアクセルを離すと回生ブレーキが効いて、メーターは左に傾く。モーターを逆回転させてエネルギーを回収するこの仕組みは、プリウスなどでもお馴染み。
ただテスラがちょっと違うのは回生ブレーキの効きが凄く強いということだ。これは敢えてそのようにチューニングしているように思える。なので最初のうちは戸惑うかもしれないが、一度慣れてしまえば、信号の停止時などもほとんどブレーキを使うこと無く停車させることもできる。つまりブレーキを踏む代わりに、アクセルを離せばいいのだ。これはちょっとした新感覚。
しかもこの回生ブレーキにはもうひとつの使い方がある。それはワインディングだ。


コーナーの入り口での減速時に、ブレーキの代わりにアクセルを離し回生ブレーキのみで減速し、フロントに車重を乗せながらステアリングを切る。あとは、コーナー出口で少しアクセルを開けながらコーナーから脱出する。モーターからのダイレクトな出力とバッテリーの重心が低いことも相まって、ガソリン車ではちょっと味わえない小気味いいテンポのコーナワークが可能だ。


まとめ


ここまで紹介したテスラ・ロードスターであるが、実は既に生産は終了していて、後はメーカーにある在庫分だけになったそうだ。担当の方にお聞きしたところ、右ハンドル車は残り2台程度とのこと。
スポーツカー好きとしては、こういったモデルを長く販売して欲しいというのが心情だが、テスラでは今セダンタイプのモデルSを販売する準備を進めている。なにぶん小さいベンチャーなので、複数のモデルを扱うのは無理があるらしく、そのためロードスターは生産を終了せざるを得なかった、という事情もあるようだ。

おそらく、そう遠くない将来、クルマは電気で動くのが当たり前の時代が必ずやってくるでしょう。それは一般のクルマだけではなく、モータースポーツの分野でも電気自動車が主流になる時代がくるかもしれない。F1だって、数年後には電気で走ってるかもしれない。それぐらいガソリンエンジンのクルマというのは今後、希少な時代になっていくでしょう。

そんな電気自動車が主流となった近い将来、はたしてテスラがどんなクルマを作り、自分がどんなクルマに乗っているか・・・・
今から凄く楽しみだな、とおもった試乗でした。